東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)138号 判決 1974年5月27日
東京都目黒区上目黒五丁目一三番九号
原告
下村キク
右訴訟代理人弁護士
中條政好
東京都目黒区中目黒五丁目二七審一六号
被告
目黒税務署長
小林猛
右指定代理人
山田巌
小山三雄
岩崎章次
石川新
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1. 原告の昭和四四年分の所得税について被告が昭和四五年一〇月一六日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2. 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決
二、被告
1. 本案前の申立て
主文同旨の判決
2. 本案の申立て
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決
第二、原告の請求原因
一、被告は、原告の昭和四四年分の所得税について、昭和四五年一〇月一六日付で、課税総所得金額を一四三〇万一〇〇〇円、所得税額を六三二万四〇五〇円とする更正及び税額を三一万六二〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下、右両処分を合わせて「本件処分」という。)をした。
二、しかし、本件処分は違法であるから、その取消しを求める。
第三、請求原因に対する被告の認否及び本案前の主張
一、請求原因に対する認否
請求原因一の事実は認める(なお、総所得金額は一四五三万六〇二二円、所得税額(申告納税額)は、六二八万九二〇〇円である。)が、同二の事実は争う。
二、本案前の主張
本件訴えは、以下のとおり、適法な審査請求についての裁決を経ないで提起されたものであるから、行訴法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項により不適法であり、却下されるべきである。
1. 原告は、昭和四五年一一月一一日被告に対し本件処分についての異議の申立てをしたが、被告は同四六年二月四日右異議申立てを棄却する旨の決定をし、該決定書の謄本を同月五日原告に送達した。
2. ところが、原告は、右決定書の謄本が送達された日の翌日から起算して一か月を経過した後である同年三月八日、なお不服があるとして東京国税不服審判所長に対し審査請求書を提出したので、同所長は、右審査請求は国税通則法七七条二項所定の不服申立期間を徒過して行われた不適法なものであるとして、昭和四八年七月九日付でこれを却下する旨の裁決をした。
3. ところで、本件訴えは、右審査請求が右の理由により却下されたにもかかわらず、原処分である本件処分の取消しを求めるものであるが、課税処分の取消しの訴えは、国税通則法一一五条一項により、当該処分について法定の不服申立期間内に不服申立てをし、かつ、これに対する裁決を経た後でなければこれを提起し得ないのであるから、本件訴えは、適法な不服申立てを欠く不適法なものというべきである。
第四、本案前の主張に対する原告の認否及び反論
一、本案前の主張に対する認否
被告の本案前の主張事実のうち、原告が異議決定書の謄本の送達を受けた日及び審査請求書を提出した日が、いずれも被告主張のとおりであることは認めるが、本件訴えが不適法であるという被告の主張は、争う。
二、原告の反論
本件訴えは、以下の理由により適法というべきである。
1. 原告は、本件処分により権利を侵害された者であり、かつ、右処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者であるから、国税通則法一一五条の規定にかかわらず、本件訴えは、行訴法九条の「法律上の利益を有する者」についてのかつこ書の規定により、適法というべきである。
2. また、原告が国税通則法七七条二項所定の不服申立期間内に前記審査請求をしなかつたことについては、次のとおりやむを得ない理由があつたから、同条三項により右請求は適法であり、結局本件訴えも適法というべきである。
すなわち、原告は、当時、ドイツ商社の日本総代理店を引き受けて、その製品の展示会を大阪で開催中に競業者に権利を侵害されそうになり、これを防ぐため社を挙げて関西地方へ出張中、その留守に異議決定書の謄本が送達されたため、法定の不服申立期間を徒過せざるを得なかつたものである。
第五、証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
一、請求原因一(本件処分の経緯)の事実及び被告の本案前の主張のうち、原告が昭和四六年二月五日に異議決定書の謄本の送達を受け、同年三月八日に審査請求をした事実は、当事者間に争いがなく、右審査請求について被告主張のとおりの裁決があつたことは、原告の明らかに争わないところである。
二、してみると、本件処分についての審査請求は、国税通則法七七条二項に定める不服申立期間を徒過してされた不適法のものであり、これを却下した裁決は正当であるから、本件訴えは、適法な審査請求についての裁決を経ていないことが明らかであつて、行訴法八条一項ただし書及び国税通則法一一五条一項により不適法なものといわなければならない。
三、ところで、原告は、行訴法九条の「法律上の利益を有する者」についてのかつこ書の規定を根拠として、本件訴えは適法である旨主張するが同条は、取消訴訟の原告適格に関する規定であつて、審査請求前置に関する行訴法八条一項ただし書の適用を排除するものでないことはいうまでもないから、原告の右主張は失当というほかない。
四、また、原告は、異議決定書の謄本が送達された当時、商用のため関西地方へ出張中で不在であつたから、審査請求の期間を徒過したことについてやむを得ない理由があつた旨主張するが、右のような事由は、国税通則法七七条三項所定の「天災その他・・・期間内に不服申立てをしなかつたことについてやむを得ない理由があるとき」に該当するものとはいえないのみならず、原告は、その理由がやんだ日の翌日から起算して七日以内に審査請求をしたことの主張もしていないから、原告の前記主張も採用するに由ないものである。
(なお、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一、第二号証によると、前記異議決定書の謄本は、昭和四六年二月五日に原告住所において、受領書に原告名の印鑑を押捺のうえ受領されていることが認められるから、原告ないしその代理人がこれを受領したものと推認することができる。)
五、よつて、本件訴えは、不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 加藤和夫 裁判官 石川善則)